◇解説 スザート テナーD チューナブル◇


レビューは、あくまで個人的な感想に過ぎません。初めに必ずこちらをご覧ください。

いろんなアングルの写真

ソプラノ管の全長は約30センチですけど、テナー管は約60センチです。


Susato Tenor D tunable

色は黒ですけど、あまり好きじゃないんですよ。できれば白が欲しかったんですけど見つからなかったので。

マウスピース部分はとんでもなく大きいので、口を大きく開けなきゃならないんですよね。

横から見てもくわえる部分は分厚いです。

テナー管も、ウインドウェイの形は基本的にソプラノ管と同じアーチ状です。

ウインドウェイ出口の下側は、わずかに削られています。綺麗な音色の秘密はここにもあるんですよね。

エッジの角度は同じくアーチ状で、とても鋭い刃物のようなカンジです。おかげで息に対する反応はとてもイイです。

Eのトーンホールだけが、なぜか楕円形なんです。これは押さえにくい。改善してほしいところ。

ここまで露骨に出っ張りがボテっとしてると、もう可愛さのあまりに笑うしかないです。立派な個性ですね。


特徴

音色は非常に明るく、とても澄み切った印象です。それでいて尺八の音色のような、こもったようなシブさもあり、スザートでよく言われる「リコーダーみたいな音色」という印象は無いですね。

一言で言うならば、太くて軽快で甘い音色とでもいいましょうか。

金属製のテナー管の重厚な音色に慣れてる人が吹いたら、ちょっと物足りない印象を受けるかもしれませんけど、スザートはスザートで、上記のような個性があります。

私は実はチーフテン(全管アルミニウム)のテナーD管を知り合いから借りて数時間吹いてみたことがあるんですけど、激しく吠えているような荒々しい音色でした。まぁ、チーフテンはそういう音色でイイと思いますけど、あれだけがテナー管の音色ではないですし、いろいろな音色のテナー管があっても面白いよなぁと思ったので、結局自分で買ったのはスザートだったんですよ。

管体のジョイントをずらしてチューニングができます。


中央左寄りがジョイント部分

といっても、ジョイント部分はあまり長くないので、チューニングの範囲は思ったほど広くはないですね。他の楽器と合わせる時にピッチの微調整をするといった使い方が適してると思います。

息に対する反応はかなりイイです。吹き込んだ分だけちゃんと音になってくれる、素直な印象です。ウインドウェイの作りがかなり正確で、エッジが鋭いためでしょう。

管体が軽いので持っていて疲れないし、比較的少な目の息量で吹けるので、テナー管としてはラクな機種ですね。

スザートの息量の少なさに慣れると、他のメーカーのテナー管を吹いた時にかなりツラく感じるほどです。それだけスザートはラクということですね。

ただ、スザートの場合Eのトーンホールが楕円形になってるために、そこだけは若干押さえにくいです。


右から2つ目がEのトーンホール

押さえ方にコツが必要で、慣れるまでにちょっと時間がかかりますけど、それほど苦労することはないです。Eのトーンホールの押さえ方にさえ慣れてきたら、かなり面白くて吹きやすいテナー管です。

材質はABSなんですけど、ABSはプラスチックとしては比較的熱に強く、短時間ならば炎天下に放置しても変形はしません。楽器にはよくないですけど管理には殆ど気を遣わないですね。

管体の肉圧が分厚いために、乱暴に扱っても壊れたりはしないし、とにかく丈夫です。更にベルの部分が一層分厚いので、パイプ状の管体の変形を守る効果もあるようです。


いかにも丈夫そうな分厚さ

プラスチックは基本的に紫外線に弱いんですけど、ABSはその点をある程度克服した材質のようで、自動車のインパネにも使われてるくらいですし。スザートのテナー管は、プラスチックの中では、頑丈さと耐久性を追及した見本みたいなもんですね。

ABS樹脂の利点である成型の正確さにより、見た目の出来栄えはかなり綺麗です。ただ、ジョイント部分にゴムリングを使っていて、テナー管ではゴムリングが2個はめられているので、ジョイントのメンテナンスに少々手間がかかりますね。ゴムの性質上、経年変化で劣化してくるので、ゴムリングの寿命は短く、ある程度「消耗品」と考えたほうがイイでしょう。

気温の変化によるピッチの狂いは殆ど出ません。ピッチが安定しているのは管楽器としてはかなりの強みでしょう。また水に強く熱にも割と強いので、湿気の多い場所や直射日光の当たる屋外での演奏も気軽にできます。

風が吹いてる時にも、音の通りが悪くなるというようなことはありません。元々スザート全体の特徴として、たくさんの息を思いっきり吹き込むという少々ラフな吹き方を前提に設計されてて、それはテナー管も同様です。ウインドウェイが広くて息をたくさん消費するのはこの理由からだと思います。ですので逆にいうと、しっかり吹き込まないと風に対する弱点が増えて、更に情けない音になるということですね。

工場出荷状態でのピッチは大体標準です。高すぎず低すぎずというカンジで、ちょうどイイです。とはいえ、これは私が吹いた時の感想でして、人によっては「ちょっとピッチが低いかな?」と感じるかもしれません。そういう時はもっと強く息を吹き込んでみてください。すると大体標準的なピッチまで上がり、全体のピッチバランスも安定してくるハズです。

スザートのテナー管が工場出荷状態でのピッチを保つためにたくさんの息量と息の強さが必要なのは、たぶんアメリカ人の息のパワーを前提に設計されているからでしょう。そうです、スザートはアメリカ製なんです。口を大きく開けてくわえ、パワフルにラフに思いっきり強く吹く、こういう吹き方をした時に初めてちゃんとしたピッチになるようで。

スザートのテナー管チューナブルタイプのメリット。ピッチが大体標準に合ってるので、最初からピッチの点でラクができる。更にチューニングができるので他の楽器とも合わせやすいのは大きなメリット。環境の変化に殆ど左右されないので、大抵の条件下で演奏できる。熱にも割と強いので管理に気を遣わなくてラクができる。テナー管としては息量が少な目で済むのでラクができる。時には、こんなにラクしちゃってイイのかしら? というくらいラクに感じる時があります。あと、背中がかゆい時に孫の手として使うのもいいのでは? ちょうどいい長さですし。あはは。

デメリット。ジョイントのゴムリングが経年変化でヘタってくるので、頻繁にチューニングする人は定期的にジョイントのメンテナンスをしなければならず、これはめんどくさい。更にゴムリングの入手元を確保しとかないとならないので、これもめんどくさい。まぁ、デメリットでしょう。

スザートのテナー管のチューナブルタイプを買う時の注意点。ジョイント部分に2個ゴムリングがはめられているんですけど、長く使っていると経年変化でゴムが劣化して、ジョイントのグリップが落ちてくるので、新品のゴムリングを入手できる業者さんなどを確保しときましょう。EMP(アーリー・ミュージック・プロジェクト)さんで、ゴムリングを単体で入手できます。EMPさんのサイトはこちら。

http://www002.upp.so-net.ne.jp/emproject/

もう一つ注意点を。私が買った時のモデルは、Eのトーンホールが楕円形になっていて少々押さえにくいです。


右から2つ目がEのトーンホール

以前のモデルは普通に丸いトーンホールだったらしいです。ですので買う時に、Eのトーンホールが楕円形なのか普通に丸いのか、確認しといたほうがイイでしょう。普通に丸いトーンホールのほうが押さえやすいと思うので、そちらを選ぶことをオススメします。最新型はもしかしたら普通に丸いトーンホールに戻ってるのかもしれないですけど未確認です。ごめんなさーい。


メーカーについて

テナー管製作メーカーとしてのスザートは、テナー管製作の元祖であるオーバートンにかなり遅れをとっていました。オーバートンがテナー管を発明してから以後、暫くはオーバートンの独壇場でしたが、そのうちに別のメーカーがだんだんとテナー管を出してきて、かなり後になってからスザートはテナー管を作ったのでした。

といっても、テナー管をメインに作るのではなく、ソプラノ管から始まって低い音域のモデルも作るようになったという、スザートのテナー管はいわば片手間で作られたみたいな位置付けです。

しかし最近ではスザートもテナー管やそれより下のバリトン管などの製作にもチカラを入れて、現在ではバリトン管でアングル・ヘッド(管体が手前に折れ曲がっていて構えやすい)のモデルを作るなど、だいぶ昔とは変わってきているようです。

テナー管もいろいろと改良を続けているようですけど、改良を繰り返すあまりに、却って演奏性を悪くしてしまうこともあるようで、Eのトーンホールを楕円形にしたのは、その解りやすい例でしょう。

メーカー側としては押さえやすく改良したつもりでも、ユーザーによっては押さえにくいと感じることもある。こんなこともしばしばあり、なかなかメーカーの思い通りにはいかないようで。

スザートのテナー管は、独特の太くて甘い音色で、他のテナー管にはないものを持っています。それを「リコーダーみたいなソプラノ管の音色をいじって篭らせて誤魔化しただけ」と感じるか「スザートのテナー管の個性」と感じるかは、ユーザーそれぞれによって意見の分かれるところでしょう。

スザートのサイトはこちら。

http://www.susato.com/

テナー管の音色の個性もさることながら、アメリカらしい頑丈さも売りですね。


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