◇解説 ディクソンDX001D(2003年モデル)◇


レビューは、あくまで個人的な感想に過ぎません。初めに必ずこちらをご覧ください。

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Dixon Soprano D one piece

くわえる部分を裏側から見ると、なんとなくチーフテンに似てるような気がします。あくまで外見だけですけど。

ディクソンは綺麗な半月状のウインドウェイです。

こういう風な形状のマウスピースは他に見ないですね。ディクソン特有の形状です。

ウインドウェイ出口もエッジも、とても狭いです。少ない息量で吹けるのは、このおかげなのかしら?

トーンホールは問題ない大きさです。誰でも楽に押さえられるでしょうね。

ベルに貼ってあるゴールドのラインのシールは、色が薄れてきたら剥がす予定です。


特徴

ディクソンの材質は、プラスティックの一種である硬質塩化ビニール樹脂(PVC)です。

線が細くて、ひかえめでおとなしい、細々とした頼りない音色という印象です。ジェネレーションのような比較的軽快な音色を引き継いで、その上で音をカスレさせているカンジで、安っぽい、いかにもティンホイッスルらしい音色といえるでしょうね。

メーカーに直にきいたわけではないので真相は解らないですけど、ディクソンは、プラスティックの範囲でできるだけ本来のティンホイッスルらしい安っぽい音色を追及したのだと思うんですよ。これが例えばABSやFRPだったりしたら、音色はここまではカスレないと思うんです。コスト削減の関係ももしかしたらあるのかもしれないですけど、カスレた安っぽい音色を出すためにPVCにした、という可能性のほうが圧倒的なのではないかな、と。

1ピースなので、チューニングはできません。一人で吹くとか、A=440Hzな現場で吹くのでしたら、これ一本でもいいですね。

息使いの基本がしっかりとできている人ならば、何の苦労も無く、すぐに吹きこなせてしまうでしょうし、ディクソンの長所を最大限まで引き出すことも、3オクターブ目を出すことも簡単です。トーンホールもそれほど大きくはなく、トーンホールごとの距離もごく標準的なので、その点も安心です。特にこれといった演奏性の問題は無く、気軽にセッションなどに持っていっても、すぐに音合わせできるくらい吹きやすいと思います。

ディクソン1ピースの材質は、よく水道の配管とかに使われるPVCで、水に強くて軽くて腐らない、そこら辺が配管に使われてる理由なのかな、と思います。DIYセンターとかでよく見掛ける灰色のPVCパイプよりも、更に強度アップした黒いPVCがディクソンの材質です。ただ、熱と紫外線に弱いんですよね。ケースとかに入れずに、日光の当たる場所に放置してしまうと、一気に寿命が縮まる・それを繰り返すと変形・最終的には割れる、という材質なんですよね。私はそれが嫌で、保管する時は、できるだけバッグの中などにしまっています。

演奏中は仕方ないですけど、それでもできるだけ日陰で吹くようにしています。こういう風に管理にさえ気を付けていれば、PVCは半永久的にもつようです。

PVCという材質のおかげで比較的軽く、場合によっては真鍮の管体のタイプよりも軽いと感じるかも。実際に重量を計ったことはないんですが、手に持った感覚では、管体が分厚い真鍮で出来てるオークと同じくらいじゃないかな? と思いました。

ディクソン1ピース


オーク

ディクソンに使われているのが、PVCの中でも硬いもの。それをパイプ状にしてるんですから、まずまずの丈夫さですね。水道の配管に使われるくらいですから、ティンホイッスル本体ごとジャバーっと水洗いしても大丈夫かと。これが真鍮の管体だったりしたら錆びが進むので心配になるんですけど、PVCの場合は平気ですから。まぁ、熱に弱いので、あまり熱いお湯では洗わないほうがいいでしょうけど。

ディクソン1ピースは、工場出荷状態でのピッチは、ほんの僅かに高いです。A=441Hzくらい。

ディクソン1ピースを成型するための金型は、その精度がとても高く、本当に、ほんの僅かな誤差しか無いようです。当然、出来上がる製品もそれだけの精度を保っていて、工場出荷時ピッチの要であるウインドウェイとエッジの寸法も正確に仕上がるように設計されているようです。しかし、そのあまりの正確さが却って設計者の頭を悩ます結果にもなるようで。つまり、精度がいいほど、ほんの僅かな誤差でもピッチの高さやトーンホールのピッチバランスにシビアに出る。あまりにも正確でデリケートすぎる設計のために、僅かな成型の狂いも誤魔化せないシビアさ、そんな宿命を抱えてるような気がするんですよ。ディクソンは設計時の僅かな誤差が、完成時(工場出荷時)のピッチに真っ先に現れるわけで、1Hz高いのは、もしかしたらそういう僅かな誤差から生まれた結果のピッチなんじゃないかな、などと勝手な憶測。

僅かな誤差を持ったまま出荷されたディクソンを、ユーザーが買って吹いてみた時、工場出荷時ピッチをどう感じるか、殆ど何も気付かないかもしれないし、「他のティンホイッスルも似たような性質を持ってるし、これだけピッチが合ってるなら充分だよ」と感じるかもしれません。もともとティンホイッスルって、それほどまでに神経質に正確さを要求するような笛じゃないですし。でも設計者は、そのほんの僅かな誤差に頭を悩ましているんじゃないかな、などということを、新品のディクソン1ピースを吹いてみて思いました。試行錯誤して改良に改良を重ねてるメーカーですし。

メリット。ピッチがほぼA=440Hz付近なので、標準的なピッチで他の楽器と合わせる時に都合がいい。本体が割と軽いので、長時間の演奏では楽ができる。1ピースタイプつまり管体のジョイント部分が無いので、ジョイント劣化の心配とは無縁。全管プラスティックなのに、ティンホイッスルらしい安っぽい音色を残してる。

デメリット。他の楽器が高い・低いピッチのままでチューニングできない場合、それに合わせることができない。息をやや多めに消費するので、息使いのトレーニングをサボっていると、たちまち演奏がキツくなる。そして最大のデメリット。裏側から見ると、特に遠くから見られたりすると、ティンホイッスルとは気付いてもらえず、ただの黒いアヤシイ棒にしか見えない。なんちゃって(笑)。

買う時の注意点ですけど、ディクソン1ピースは、Tony Dixonを示すロゴが、ラベル式だったり刻印式だったりします。頻繁にモデルチェンジを繰り返してるので、両方が混在していたりもします。特にこだわりがなければいいのですけど、注文する時にどちらなのかを確認してみてはいかがでしょうか?


刻印式はこんなカンジ

ベルに貼られている金色のシールは、管体の寸法の正確さとは裏腹に、けっこう適当です。シールがズレていたりすることなんかは日常茶飯事。


綺麗に見えるが実はズレている

それと、シールの金色の塗装は質が悪く、使っている内にだんだん塗装が薄れてくるんですよ。気にしない人は気にしないんでしょうけど、金色のシールには期待しないで、そんなもんだと思っておきましょう。実際、「機能性に問題が無ければそれでいいんだ!」というティンホイッスルのメーカーは多いですから、買う時の注意点として、あまり外見にこだわりすぎないことでしょうね。

このPVCタイプは、2003年から2006年の間に生産中止になったようで、その後、管体がPVCでヘッドがABSのタイプに変わったようです。


メーカーについて

ディクソンのメーカーは、常に設計変更を行っていて、改良を図っているようです。管体そのものの寸法や、チューナブル(2ピース)タイプのジョイント部分の精度や、ウインドウェイの形状の変更や、メーカーのロゴをシールから刻印に変更したり、いろいろ試しているようです。こういうメーカーだから品質や性能が安定していて、人気もあるんでしょう。いや、刻印は笛の性能には関係ないか。

ディクソンのサイトはこちら。

http://www.tonydixonmusic.co.uk/


ウインドウェイの改造作業

マウスピース部分は、今まではどこもいじっていないノーマルのままでしたけど、ノーマルのままだと、2オクターブ目のG、A、B、C#の音を出す時に、ディクソン1ピースの特性上、かなり強く息を吹き込まなければならず、その分G、A、B、C#のピッチがやや上がってしまい、他のトーンホールとのピッチバランスが取れませんでした。

そこで、ウインドウェイ内部を狭くして、高音域の息量を減らして、結果的にG、A、B、C#のピッチを大体標準ピッチにまで下げて、他のトーンホールとのピッチバランスを合わせよう、ということにしました。

この作業は、後に紹介するトーンホールを削った作業とほぼ時を同じくして作業したので、ピッチバランスを平均律に近づけるために、ウインドウェイ改造とトーンホール改造のダブル作業で改造をしたことになります。

さて作業開始です。やったのは、ウインドウェイの上下の広さを調整する作業です。まず、ウインドウェイの上側の部分(丸くアーチ型になっている部分)ですけど、プラスチックの板の上側だけにパテを塗ったものをウインドウェイに差し込んで、ウインドウェイの上側だけにパテを塗ります。それでパテが乾いてから細かい平ヤスリやサンドペーパーをウインドウェイに差し込んで、パテを細かく修正していきます。

ピッチバランスが取れているかどうか、その都度シェイクダウンテストをして、納得がいかなければもうちょっとパテを塗り(あるいはパテを少しだけ削って)、ピッチバランスが取れるまでウインドウェイの上下の広さを調整します。この作業は相当な時間と労力を費やしました。まぁ楽しい作業だからいいんですけど(笑)。

ここで忘れてはならないのが、ウインドウェイの両サイドの溝に付いたパテを完全に除去することです。こうしないと、演奏中にウインドウェイに溜まった水分が管体へと流れていってくれなくて、そのせいで、高音域は出やすくなっても低音域が非常に出にくくなってしまうからです。ディクソンのウインドウェイの両サイドの溝は、水分を逃がすために設けられているので。

最後に、パテが剥き出しになっていると吹いている間に水分を吸ってパテが劣化するかもしれないので、自動車用のタッチペンでウインドウェイ内部を塗装します。これで完成です。

こうして外から見ただけでは、ウインドウェイ内部を改造したことはまるで解らないでしょ。でも実は相当、笛の特性が変わりました。

作業を終えて2〜3日ほど放置し、パテと塗料が完全に乾くのを待ってから、いよいよ本番の長時間演奏テストをしてみたところ、見事にピッチバランスが取れていました。

ただ、この笛をピッチバランスにこだわって吹きこなそうとすると、全体的なピッチがほんの僅かに高めになってしまうことが玉にキズ。Aのピッチでいうならば、A=442Hzくらいですかね。これくらいならセッション現場でもほとんど問題ないでしょう。ましてソロ演奏が多い私ならば尚更気にする必要はナッシング〜です。

 

ついでにおまけの画像を。

管体末尾のゴールドラインのシールは、色が薄れてきたので剥がしちゃいました。

ディクソンのロゴの刻印と、D管を示す刻印です。


トーンホールの改造

先に紹介した、ウインドウェイの改造とほぼ同じ時期に、この作業をしました。

トーンホールをできるだけ平均律に近づけるように、各トーンホールをひとつひとつ慎重に丸ヤスリで削りました。

さて、トーンホールをどのくらい削ったか見てみましょう。ディクソンのチューナブルのノーマルと比べてみます。


上がチューナブルのノーマル、下が1ピース改造版

これじゃよく解りませんね。ではもっと拡大して、


上がチューナブルのノーマル、下が1ピース改造版

 

更に拡大して、左から、B、A、Gのトーンホールです。


上がチューナブルのノーマル、下が1ピース改造版

 

お次。左から、F#、E、Dのトーンホールです。


上がチューナブルのノーマル、下が1ピース改造版

Eのトーンホールだけは元々ちょうどピッチが合っていたので削らなかったんですけど、E以外のトーンホール(5つ)は全て丸ヤスリで削りました。でもこれだけ拡大しても写真からはよく解らないですね。つまり、写真からはよく解らないくらい僅かに削っただけ、ということです。元々ピッチバランスがまぁまぁ取れていたものを、5つのトーンホールを僅かに削ることによって、更にピッチバランスの完成度をアップさせて平均律に近づけたというワケです。


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