◇解説 チーフテン 1ピース◇


レビューは、あくまで個人的な感想に過ぎません。初めに必ずこちらをご覧ください。

いろんなアングルの写真

大きい写真はこちら (横幅550ピクセルの写真です)

管体の太さは、尋常じゃないです。いくらなんでも太すぎ〜。


Chieftain Soprano D

値段は高いのに、外見は安っぽい印象です。アルミニウムの輝きも弱いですし。

ちなみに管体の、柄が入ってる布は、私が遊び心で貼ったものです。

くわえる部分も太いです。口を大きく開けなきゃなりません。

新品で買った時、管体に大きい傷がありました。チーフテンの商品管理にも問題ありですね。

ウインドウェイ出口は狭いんですけど、横幅が広すぎるので、大量の息が必要です。

ノーマルのエッジでは形に問題があったので、エッジをアルミ板で自作しました。

指の太い人にしか押さえられない、すごく大きいトーンホール。これじゃ演奏者が限られちゃう。


特徴

チーフテンの音色はとても重厚で、管体と同じく、ず太い音です。体格のいいワイルドな男性が大声で叫んでいるような、ド迫力な音色です。とはいえ、リコーダーのよーな綺麗な音色ではなく、ティンホイッスルらしいカスレを残したまま、バス・トロンボーン並みに太く、大きくしたような音色、というのが一番近いかも。

とある人からの情報によれば、映画「タイタニック」で使われていたティンホイッスルは、チーフテンのテナー管らしいです。情報を提供していただいた方(ご本人により匿名希望です)、誠にありがとうございました。

映画「タイタニック」の影響もあって巷ではずいぶんティンホイッスルがウワサになったんだそうですが、私はタイタニックっていう映画は全然知らなくて、あの映画でティンホイッスルを知ったのでは無いんですよ。それにあの映画は、今でも興味が無くて、まるっきり見ていないので、詳しいことは知らないし。まぁ、映画タイタニックを観たことのある人は、あれがチーフテンのテナー管の音色なのかと思えばいい…のでしょうね、たぶん。

私の持っているタイプは1ピースタイプなのでチューニングはできません。でも、メーカーのラインナップにはチューナブルなタイプもあります。チューナブルタイプは、管体のジョイント部分をスライドさせてチューニングするんですけど、あまり乱暴にスライドさせていると、そのうちにジョイント部分のアルミ表面が削れてきて、ジョイントのグリップが無くなってスカスカになってしまうらしいので、ご注意を。スカスカになったジョイントのグリップを回復させるには、コルクグリスでもジョイントグリスでもどちらでも大丈夫ですので、それを厚めに塗ってください。管体がアルミのため管体表面の劣化が無いからです。

管体のボアがかなり太いために、2オクターブ目のG辺りから上の演奏が非常にキツいです。本当に大量の息が必要です。ロングトーンをしようとすると、桁外れな息の瞬発力や肺活量がないとできないという、非常に困った機種なんです。実際、外国人の男性でもまともにロングトーンを吹ける人はあんまり居ないようですし、ハイエンドは殆ど使わず、低音域の重厚な音色のみを使って、効果音のような目的で吹いてる人も居るほどですから。

トーンホールもだいぶ大きいので、指の細い人には辛いです。指の細い人は押さえ切れなくてミストーンが多くなるでしょうね。

このようにいろいろと大きな問題があるので、覚悟して買ってください。アイリッシュのセオリーに則った奏法の人にはチーフテンはお奨めできませんね。それとも、コレクションのためとか、あるいは怖いもの見たさの気分で買ってみますか?

チーフテンの材質はアルミニウムですけど、その肉厚がかなり分厚いんですよ。同じアルミニウムである、ウォルトンのギネスと比べてみましょう。

ウォルトン ギネス


チーフテン

ね? すっごく分厚いでしょ。仮にウォルトンのギネスが薄切りハムだとしたら、さしずめチーフテンはハンバーグというところでしょうか。

アルミニウムは基本的に柔らかい金属ですので、あまり薄いと強度がガクンと落ちてしまうんですよね。その替わり、ほんの少し厚くしただけで一気に強度がアップします。なのでチーフテンくらい分厚いと、少々のチカラがかかった程度じゃビクともしないでしょう。少なくとも、ケースに入れて保護する必要は無く、乱暴にバッグの荷物に紛れ込ませて運んでも大丈夫ですね。それくらい丈夫です。太い管体のチーフテンは、丈夫さ「だけ」でいえばダントツのトップです。それ以外は以下略っと。擦りキズがつくのが嫌ならば、コンビニの袋にでも入れて口を縛っておけば充分です。

寒い日の金属が手にくっつくほど冷たくなるのと同じで、金属で出来てるウインドウェイも、それだけ気温の影響を受けます。その点で、全管アルミニウムの削り出しで作られたチーフテンは、当然ウインドウェイの内部もアルミニウムなので、寒い場所で吹いてると、息との温度差でどんどんウインドウェイ内部に水分が発生してきます。冬場、鏡を見ながら吹いていると解るんですけど、ウインドウェイ出口の両脇からどんどん水分が管体へと逃げていってるんですよね。そのうちにベルの部分からポタポタと水分が垂れてきて、まるで締まりの悪い水道の蛇口みたい…?

逆に夏場は夏場で、日の当たる所に置いておくと管体が熱くなって、くわえるのが辛いほどです。それだけ気温の変化には敏感です。

これだけの影響を受けるので、その分ピッチにももろに影響が出ます。冬場はかなりピッチが下がり、夏場はその正反対です。チーフテンの場合は吹き方を工夫してもピッチの変化を補うことは難しく、ある程度季節や気温に応じて、ピッチの変化は妥協するしかないですね。チューナブルのタイプがあるのは、気温に影響を受けたピッチ変化を補う目的も含まれているのかも。

チーフテンの工場出荷状態では、1ピースタイプのピッチは、やや高めです。A=443Hzくらい。チューナブルタイプも、スライドさせて1ピースタイプの長さに合わせると、やはりピッチは同じくらい高いようです。ピッチ修正の点では融通の利くチューナブルタイプのほうが圧倒的に有利ですね。下の1ピースタイプの写真、私が遊び心で貼り付けた左側の布が被った部分ですけど、そこがチューナブルタイプでいうところのジョイントの位置です。


左側の布が被った部分がジョイント

ただ、チューナブルタイプは、ジョイント部分の取り扱いに気を遣うんですよ。1ピースタイプのようには手軽には扱えないんです。常にジョイント部分を丁寧に扱わないと、すぐにジョイントが痛んでチューナブルとしては使えなくなっちゃうんですよ。特にジョイントが変形でもしたら、もうティンホイッスルとしては終わりです。ま、手軽さをとって1ピースか、ピッチ修正にこだわってチューナブルか、個人の好みの分かれるところでしょう。

チーフテンはイギリス製ですけど、イギリスは比較的寒い国なので、その分特にチーフテンのピッチが下がりやすいことを考えれば、やや高めのピッチで作ることが丁度合ってるのかもしれないですね。私は、それがイマイチ気に入らなくて、エッジをアルミ板で自作して、なんとか全体のピッチバランスを取りました。でも取り付け位置がものすごくシビアで、かなりの時間と手間をかけないと全体のピッチバランスが取れませんでした。まぁ、そこまで苦労して調整するよりはチューナブルタイプを買ったほうが手っ取り早いですけど、寒さによるピッチ下降+工場出荷時のやや高いピッチでちょうどバランスがとれる、という理由から、チーフテンは最初からやや高めのピッチで作られているのかも。

いささか欠点ばかりが目に付くチーフテンですけど、あえてメリットを挙げるならば、すごく個性的でワイルドな音、ということでしょう。うまく吹けなくてもめげずに頑張っていれば、ハイエンド付近の音まで出せた時に、すごく個性的でワイルドな音に驚き、また、感動もすることでしょう。長い階段を上り詰めた時の達成感を味わえるってカンジですね。

デメリット。人によっては吹きこなせるようになるまでに何ヶ月もかかったり、最終的にとうとうハイエンドを出せないで、嫌になって押し入れの隅っこに眠らせてしまったりする可能性が大きい。ソプラノ管だというのにトーンホールもかなり大きく、指の細い人は押さえられないことも多いと予想される。

特別に、更なるデメリットを挙げておきましょうか。チーフテンの息使いに慣れてしまうと、他の(ごく普通の)ティンホイッスルを全く吹けなくなっちゃうんです。強すぎる息使いの癖が染み付いちゃって、微妙な息使いができなくなっちゃうんですよ。なので、チーフテンを吹く時だけは、「これはトランペットだ」とでも思って割り切って吹き、その息使いの切り替え感覚を体に徹底的に叩き込まないと、チーフテンしか吹けない、凝り固まった状態に陥って、非常にヤバいということです。実際、太いチーフテンを無理に吹きこなそうとして息使いのバランスを全部崩してスランプに陥り、普通のティンホイッスルさえもまともに吹けなくなり、結局ティンホイッスルそのものをヤメてしまった人もいらっしゃいます。怖いです。チーフテンの場合は、うまく吹けないからといって意地になって練習せずに、さっさと諦めたほうが無難でしょう。

うーん、これだけデメリットだらけのティンホイッスルも珍しいわぁ〜。

マイナス要素ばっかりなので買う人はあまり居ないかもしれませんけど、チーフテンを買う時に気を付けること。海外の通信販売サイトで、商品の紹介をしている写真があったりしますよね。でも、その写真がそのティンホイッスルの最新型だとは限らないんです。特にチーフテンの場合は、旧型である、管体のボアが細いタイプの写真をそのまま載せているところもあったりします。しかしその写真の(細い管体の)チーフテンは実は既に在庫が無くなって、新しい(太い管体の)モデルしか在庫が無いことも多いです。つまり、古いモデルの写真のまま、その写真を入れ替えていないということです。海外の通信販売のサイトを見て、「あれ? このチーフテンの写真、管体が細いじゃん。まだ古いモデルの在庫があるんだ。じゃぁ注文しよう」…ということになって、いざ手元に届いたチーフテンを見てびっくり、太いほうの管体だった、という可能性もかなり大きいです。もちろん、本当に古いモデルの在庫があって写真を古いままにしてる業者さんもありますけど、ほとんどの場合はそういうことは少ないので、買う前に念の為にメールなどで問い合わせてみたほうがいいでしょう。返品はきかない業者さんが多数でしょうし、届いてから後悔しても遅いので。特にチーフテンは値段が高いので要注意です。

 

2016/01/09追記
もちろん例外な方もいらっしゃいます。かなり息量を使う金管楽器などを経て初めてティンホイッスルを吹く場合、このチーフテンは息量の面では、人によっては「自分に合っていて吹きやすい」という方もいらっしゃるみたいです。一般的には息の消費量と指の太さという点で奏者が限られてしまう笛だと思うんですけど、吹きこなせた時の爽快感と満足感は、他の笛では味わえないでしょうね。

「んなこと言って、めあ、あんたは吹きこなせていたの?」ってツッコミが来た時に備えてw 2000年前後の、過去のチーフテンの演奏音源です。当時は2オクターブ目のCまで出せてました。今の私にゃこんな息のパワーは無いです。爆音注意です。例によってIEでしか聴けませんけど。


メーカーについて

Hardy(ハーディ)というメーカーの、このチーフテンという機種は、全管アルミニウムなのはオーバートンと同じです。以前はオーバートンの製作ノウハウを元に作られていました。


Chieftain Soprano D

しかし、現在のチーフテンは管体の太さがあまりにも太く、オーバートンの製作ノウハウを元に作ったとは言えなくなってしまったようです。


上がオーバートン、下がチーフテン

かつては、チーフテンはオーバートンの廉価版として考えられてきたようですけど、今では全くの別物になっています。くわえる部分の形も大きさもずいぶん違いますね。

太さの違いがよく解るでしょ。ベルの部分は、チーフテンは管体の切断面の処理がやや雑です。廉価版だからと言えばそれまでなんですけど。

オーバートンに比べると、チーフテンはトーンホールもだいぶ大きいので、指の細い人には辛いです。指の細い人は押さえ切れなくてミストーンが多くなるでしょうね。

管体やトーンホールだけならまだしも、チーフテンはウインドウェイもかなり広いので、演奏には本当に大量の息が必要です。桁外れな息の瞬発力や肺活量がないと演奏できないという、演奏者が限られてしまう困った機種なんですよ。

チーフテンを作っているHardyは、昔はオーバートンの関連メーカーという存在でしたけど、現在は全くの個別のメーカーとして独立しているようです。Hardyが独立した際には、いろいろとややこしい事情があったようで…。

Hardyがチーフテンという機種のモデルチェンジを行い、管体を太くしたのは、1999年の後半から2000年の前半だと思われます。私が買ったのは2000年の7月でしたけど、その時は太い管体へのモデルチェンジがされた直後だったようです。

「Hardyさーん、なんでこんなにチーフテンを太くしたの?」と思ったもんでしたけど、昔から作られていた機種でチューナブルモデルのほうは、元々管体が太かったようです。しかし(私が買った)1ピースモデルまでをも太くしてしまったのには、何か理由があるのかしら? と思いました。

推測ですけど、チューナブルモデルと1ピースモデルを同じ太さにしたのは、製造コスト削減の可能性があるんじゃないかなと。その他にも推測できる理由があるんですけど、勝手な推測に過ぎないのでこの辺でストップしておきます。

それにしても、かつての関連機種だったとはいえ、ここまで変わってしまったチーフテンには、もはや「オーバートン」という表現手段の言葉を使う資格さえないんじゃないでしょうか? だって、これじゃ全くの別物ですもん。

チーフテンのサイト、というか、チーフテンを扱っているHardyのメーカーのサイトはこちらです。

http://www.kerrywhistles.com/

フラッシュを駆使したサイトで、ケリー・ホイッスルのコンテンツにチーフテンの説明が含まれています。フィル・ハーディ氏のメーカー「Hardy」のラインナップにあるブランド名の一つがチーフテンです。


Home