◇解説 スザート チューナブル◇


レビューは、あくまで個人的な感想に過ぎません。初めに必ずこちらをご覧ください。

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白い管体でチューナブル(2ピース)のスザートは、比較的珍しいようです。入手できたのはラッキーでした。白いスザートは好きなので。


Susato Soprano D tunable

指を差し込めるほどに、管体は太めです。おかげで音量も大きいんですよ。

スザートの外見を嫌う人も多いようですけど、私はとても好きです。なんか愛敬があるから。

マウスピース部分は、とにかく肉厚が分厚いです。アメリカらしい頑丈さですね。私は、アメリカという国については、政治の内容に関しては大嫌いで、行ってみたいとも住みたいとも思わないんですけど、物作りの頑丈さという点では好きです。

管体とマウスピースは一見、一体構造のように見えますけど、実は接着剤で接着されてます。

ウインドウェイはアーチ状です。

ウインドウェイ出口もアーチ状です。差し込まれている棒がまん丸のまま。

ウインドウェイに合わせて、エッジもアーチ状です。エッジだけはすごく薄いです。

こういう風に、ベルに「ボテッ」とした出っ張りがあります。これも愛敬があって好きだったりします。


特徴

音色はリコーダーにかなり近いカンジで、あまりに綺麗すぎる、ティンホイッスルらしくない音色といってもいいでしょうね。それがまた個性だったりするんですけど、少なくとも、ティンホイッスルの音色を期待して吹いたら、もれなくガックリするでしょう。このスザートの音色について、「リコーダーみたいで、ティンホイッスルらしい音色じゃない」と言っても信じてもらえない場合があるようです。これはもう信じてもらうしかありません。

音量はかなり大きいので、存在感は強いです。セッションなどで大きい音量で目立ちたい時にはスザートがいいでしょう。

管体のジョイントをずらしてチューニングします。


中央がジョイント部分

ただし、チューニングの幅は意外と狭く、ジョイントを3分の2くらい差し込んだ状態で、+−2Hzくらいが実用的なチューニングの範囲です。

スザートのチューナブルは、吹くのに息量がだいぶ必要です。ウインドウェイが広いためなんですけど、吹き込む息が無駄になってるカンジは全く無く、むしろ吹き込んだ分だけちゃんと音になってくれます。ただし、設計されたピッチまでもっていくにはやはり息をたくさん吹き込まないといけないので、結局、「息をたくさん使って大きな音を出す」という吹き方をしなきゃならないんですよ。

肺活量が必要なので、初心者の息使いの練習用にも最適ですが、初心者が始めからずーっとスザートだけを吹き続けるのではなく、標準のタイプ(ジェネレーションとかファドーグとか)も吹いてみたほうがいいでしょうね。そうしていろんなティンホイッスルを比較してからスザートをお気に入りとして使うのならば理想的かと。まぁ、そういうことは個人の自由ですからあまり書かないでおきますか。

DとEのトーンホールの距離が離れてるので、慣れないうちは押さえにくいかも。写真は上から、クラークのスイートーン、ウォルトンのスタンダード、スザートです。


スザートだけはDとEが離れてる

トーンホールを押さえる時には、右手の中指と薬指の間だけを広げるようにしなきゃなりませんね。まぁ、これも慣れてくればほとんど気にならなくなるので、特に「使いにくい・吹きにくい」ということは無いでしょう。

スザートの材質はABS樹脂で、ABS樹脂というと自動車のインパネにも使われてるくらいですから、耐久性はかなりのものです。ある程度熱にも耐えられるし、プラスティックとしては強度もかなりあります。ただ、エッジだけはすごく薄いので、熱にさらさないに越したことはありませんけど。エッジは手で押しただけで、ペナペナとしなるくらいに薄いです。ABS樹脂が丈夫とはいえ、なんでこんなに薄くしたのかしら? と思いますけど、息への反応を良くするためなのかもしれないです。

ジョイント内部にはゴムのリングが使われてるんですけど、ゴムなだけに、経年変化で劣化してくるという特徴なのが難点です。


左の黒い部分がゴムリング

とはいえ、ゴムリングの予備さえあれば心配無いんですけどね。ゴムリングの取り外しはつまようじを使ってできるし、取り付けは手でそーっと被せて(ゴムリングに無理なチカラがかからないようにして)滑らせていけばできるので。

気候条件による影響について。スザートのチューナブルは、その材質のおかげで、気温には殆ど左右されないという強みをもっています。具体的に言うと、気温の上昇・下降に対してピッチの変化が殆ど無いということです。これは材質によるため、そして管体の肉圧が分厚いためだと思われます。気温の変化に左右されないので、チューニングの幅が狭くても、演奏現場では殆ど支障は無いということですね。その点では、かなり便利なんじゃないかな、と。それから、もうひとつ強みがあるんですよ。例えばウォルトンのギネスは風に弱い・風が吹くと音が通らない、という弱点を持ってるんですけど、このスザートはそういうことはなく、屋外で少々風が吹いてもへっちゃらで音がよく通ります。ほんとにうるさいくらいによく音が通ります。


これ見よがしなロゴ

この理由は、たくさんの息を使って大きい音を出す吹き方をするティンホイッスルであり、おまけに管体の肉圧も分厚いので音に重みがあるからだと思います。見た目は不格好でも、音色がリコーダーみたいでも、ティンホイッスルとしての性能はかなり優れてます。

スザートのチューナブルの工場出荷状態でのピッチは、わずかに高め。A=442Hzくらい。もっとも2Hzくらいの差ならばジョイントを動かしてA=440Hzに難なく合わせられるので、特に問題は無いです。スザートのジョイントの精度がしっかりしているのは、実にありがたいです。これがいいかげんな精度だと、うまくA=440Hzに対応できないでしょうし。

えっと、それからスザートのメーカーのテストプレイヤーについてお話します。その筋の専門家から直にきいたことなので、本当のことだと思いますけど、その話というのは…

スザートのメーカーのテストプレイヤー、つまり試作品のピッチや演奏性をチェックする人ですけど、この人がもう、すっごく強く息を吹き込む癖があるらしいんです。そういう吹き方をする人が試作品のチェックをしているらしいんですよ。で、メーカーの設計側は、当然その人が吹いた時のピッチに合うように、つまりたくさんの強い息を吹き込むという前提で設計にフィードバックさせているんです。その人のテストプレイに引っかかったらもう一度設計をやり直しする、その人のパワフルな吹き方に合った状態に設計し直す、というワケです。それで、たくさんの息を思いっきり強く吹き込んで音を出す、そうしてピッチが標準になるように設計する、というワケです。スザートの特有の吹き方は、こんなところに理由があるのかと思いました。いやぁ、いかにもアメリカらしいパワフルさを感じさせる話で、これをきいた時には笑っちゃいました。まぁ、それは余談の笑い話としても、日本人が吹いて工場出荷状態でのピッチを得るには、それなりの息のチカラが必要ということですね。

チューナブルのメリット。言うまでもなくチューニングが出来て便利。しかもA=440Hzに対応している。プラスティックとしては熱に強く管体も分厚くて丈夫なので、少々乱暴に扱っても壊れない。音量が大きいので、セッションで目立つ。あと、気温の変化にピッチが殆ど左右されないので、屋外で演奏する時や、ストリート奏者にもありがたい。

デメリット。音色がリコーダーみたいなので、ティンホイッスルらしさが感じられず、ティンホイッスル本来の音色が好きな人には嫌われる。ティンホイッスルとしては音量がかなり大きいので、特にティンホイッスル同士の音合わせでは「無神経なくらい大きい音だ」とヒンシュクを買いやすい。ジョイントのゴムシールが経年変化で劣化するので、リペアに気を遣う。人によっては、「外見が無骨でカッコ悪い」と思われて、ダサいティンホイッスルの代名詞になる。なんちゃって。でも、私はスザートの外見も可愛くて愛敬があって好きなんだけどなー。

買う時の注意点について。できれば、ジョイント部分に使われているゴムリングの入手元を確保しといたほうがいいです。いかんせんゴムですから、長く使っていると自然に劣化して、いつかは切れちゃいます。それだけの理由で新しいのを買うのは勿体無いですよね。ゴムリングさえ交換すれば使えるので、入手元を確保しておきましょう。ちなみに東京のEMP(アーリー・ミュージック・プロジェクト)さんでは、ゴムリング単体で手に入るそうです。EMPさんのサイトはこちら。

http://www002.upp.so-net.ne.jp/emproject/

スザートを初めて買った人が思いやすいことは、「音色がリコーダーみたいでイヤだ!」という、音色に対しての違和感です。確かにスザートはリコーダーみたいな音色ですし、更に音量も大きいですけど、良くも悪くもそれがスザートの個性です。買う時に「これはリコーダーみたいな音色で、ティンホイッスルらしくないよ」とアドバイスを受けているにも関わらず、「そんなはずはない。少しはティンホイッスルらしい音色が残っているはず」と思い違いをして買ってみたら、本当にリコーダーみたいな音色でガックリ、という人もいらっしゃるようで。アドバイスを受けているというのに、それを信じない人が起こしやすい失敗です。本当にリコーダーみたいな音色なので、買う時にはこの点に特にご注意ください。もちろん、リコーダーみたいな音色も面白いな、という理由から買うのならば話は全く別です。


メーカーについて

スザートは、かつてのティンホイッスルのイメージをくつがえしたメーカーです。リコーダーに近い「あまりに綺麗すぎる」音色であり、更に音量を大きくすることによって、本来のティンホイッスルの個性を無くしてしまいました。ティンホイッスルの改革をしたメーカーとしては高く評価できるんですけどね。

人によってはスザートこそが自分の探していたティンホイッスルだという人が居るようですけど、価値観は人それぞれですから、それはそれで全然構わないと思います。でも、本来の(たとえばジェネレーションとかファドーグとかの)ティンホイッスルらしい機種の存在価値も、できれば認めてほしいところです。あくまで個人的な要望ですけど。

まぁ、上記のことがあるので、良くも悪くも個性的なメーカーだと思います。

スザートのサイトはこちらです。

http://www.susato.com/


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