◇解説 ディクソン チューナブル(2001年モデル)◇


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大きい写真はこちら (横幅550ピクセルの写真です)

管体を間近で見ると解るんですけど、まるでグラナディラの木のように見えます。


Dixon Soprano D tunable

黒い管体には、ゴールドのラインのシールが貼られています。渋いわぁ〜。

黒い管体は写真に出にくい…っていうか、私の撮影が下手なせいだな。

ご多分に漏れず、裏側には棒が差し込まれています。わずかに継ぎ目が見えるでしょ。

エッジの角度は、かなり水平方向に向いてます。なので息に対する反応もいいんでしょう。

D管を示すラベルの文字が、管体にあてた小指で擦り減って消えちゃいました。なんとかしてほしいなぁ。


特徴

音色はとても綺麗で繊細です。それでいて音をカスレさせて個性を出している、という独特のカンジです。1ピースタイプも同じような音色ですけど、こっちのチューナブルタイプの音色のほうが、やや厚みがあります。

音量は割と控えめです。ハイエンドになっても音がキンキン耳につかないのは、プラスティックのティンホイッスルに共通している点ですね。

管体のジョイント部分を抜き差しして、チューニングをします。チューニングの範囲は広く、とても便利です。


管体のジョイント部分

また、ディクソンのチューナブルタイプには、ソプラノD管とメゾ・ソプラノC管において、ジョイント部分にブラス製のチューニング・スライドを用いたものもあります。

ウインドウェイは入り口も出口も丸くなっています。音色の生成だけでなく、息のロスを防ぐためでもあるんでしょう。

チューナブルタイプは、ちょっと変わった特性を持っているんですよ。バッグなどからチューナブルタイプを取り出して吹き始める、未だ管体内部が湿っていない状態では、必要な息量は1ピースよりも多い。でも、曲などを吹き込んでいくにつれて、必要な息量がだんだん減っていって、しまいには1ピースよりも息が楽になっちゃう、という珍しい特性を持ってるんですよね。

 

 

という風に感じると思います。原因は、ウインドウェイから流れてきた水分がジョイント部分で塞き止められ、管体の内部に水分が溜まって「管体の内径が狭くなる」ことにより、低音部が出にくく、逆に今までよりも少ない息量で高音部を出せるようになる、と推測されるんですよ。


水分を塞き止めると思われるジョイント

どうやら、この水分を塞き止めるジョイントが原因のようです。ジョイントのない1ピースからは考えられない特性ですね。当然、管体が乾けば元の(息量が多めの)特性に戻ります。

一般的にいう「吹きやすさ」の基準ですけど、吹き始めではなく、吹き込んだ状態(1ピースよりも息量が少なくて楽な状態)が重視されると思うんです。曲を吹く時は、吹き込んでいる時間のほうが圧倒的に長くなるので。で、チューナブルの吹きやすさをまとめると、「吹き始めは息量が多めだけど、少しでも吹き込んでくると息が楽になるので、一般的な吹きやすさは、1ピースよりもチューナブルのほうが楽で吹きやすい」と、これが吹きやすさの判断基準になると思います。こういう理由から、「吹きやすさランキング」で、1ピースよりも息量が少ない、と書いてるというワケです。

ディクソンのチューナブルの材質は硬質塩化ビニール樹脂(PVC)なので強度はあるのですけど、1ピースタイプのところに書いたことと同じで、熱と紫外線に弱く、これはもうPVCの宿命ですから仕方がありません。できるだけ熱と紫外線を避けて、管理に気を付けるしかないですね。ウインドウェイやエッジが歪んだら面倒ですし。

熱はいくらでも避けることができますけど、吹いている以上は必ず何かしらの紫外線を浴びてることが多いワケで。極端に言えば部屋の蛍光燈だって紫外線ですし、そんなこと言ってたら吹けないじゃん(笑)。まぁ、いくらなんでもそこまでヤワな材質ではないので、紫外線については、日光さえ避ければ大丈夫でしょう。外で吹く時も木陰とかで吹けばオッケーということで。

PVCという材質のために、いわゆる「こすれ」にはちょっと弱いようで、チューニングのためにジョイントを抜き差ししながら長年使っていると、ジョイント部分がだんだん擦り減ってきます。当然、差し込むほうと受けるほうの両方とも擦り減ってくるので、ディクソンのチューナブルタイプはある程度使ったら、スライドグリス(コルクグリスではダメ)を厚めに塗って、メンテナンスをする必要がありますね。なぜコルクグリスがダメかというと、PVCとの相性が悪くて、管体の表面を劣化させてしまうからです。

ちなみに、一旦ある程度まで擦り減ったらそれ以上は擦り減らないので、メンテナンスさえしっかりしてれば、ずーっと使えます。PVCという材質のティンホイッスルは、管理にさえ気を付けていれば半永久的に使える、その見本みたいな話ですね。

気候条件による影響について。特に寒い時に顕著に現れることなんですけど、ディクソンのチューナブルタイプは、本来ベルから水分が落ちてくるはずなのに、管体内部でのジョイント部分のへこみが水分の通る邪魔をして、なかなか落ちてこないようです。そのために、水分が溜まった状態のままで吹くことになり、全体のピッチが若干不安定になるようで。こんなところで気候条件の影響を受けるとは意外なもんですね。また、ジョイント部分は季節によって抜き差しの抵抗が変わってきます。熱い時は緩く、寒い時は固くなるんですよ。緩い場合はまだいいんですけど、問題なのは固い時つまり抵抗が強い時で、チューニングしたい状況ではなかなかスムースにはスライドしてくれないんですよね。かといって、潤滑剤として石鹸水などをジョイントに流し込むと今度はユルユルになっちゃって困るので、潤滑剤は使わずに、ジョイントをタオルや布などで温めてから動かしたほうがいいでしょう。ディクソンのチューナブルは、ジョイントの寸法もけっこうきっちりしてるので、それだけ気候条件による影響を受けやすいようです。

ディクソンのチューナブルは、「どこで基準ピッチを計ればいいのかしら?」と悩みやすいですけど、トーンホールごとの各ピッチのバランスが一番いい状態つまり各トーンホールのピッチの狂いが最も少ない状態、この状態になるスライド位置が、工場出荷状態でのピッチだと思います。で、その結果ピッチはA=442Hz周辺のようです。僅かに高めですけど、何せチューナブルですからこの程度の高さは許容範囲ですね。

チューナブルは、1ピースと違って、トーンホールの形がやや楕円形になっています。押さえやすさを狙ったのもあるでしょうけど、それとも工場出荷状態でのピッチの修正をするために、基本設計をあれこれテストしてる段階なのかも、と思います。常にいろいろと手を加えながら試行錯誤してるメーカーですから、工場出荷状態でも、時にはこういう試験的な状態の製品もあるようで。チューナブルタイプだから逆に工場出荷状態での基準ピッチを大事にする、という考え方を持っているのかも。

チューナブルタイプのメリット。チューニングができるので、ピッチの違う楽器に合わせられること。これがまず大きなメリット。おまけにチューニングの幅も広いので、かなり演奏現場で融通が利く。ディクソンのティンホイッスルの中では音に厚みがあり、ビブラートなどの表現もつけやすいこと。更に音の通りがいいので、存在感をアピールできる。一言でいえば、印象的な音。それから、管体表面の処理が、まるでグラナディラの木のように見えるので、いわゆるひとつの高級感を味わえる。そんなことはどうでもいいですか?

デメリット。ジョイント部分のへこみに溜まった水分があまりベルまで流れないので、長時間の演奏では、ピッチが不安定になりやすい。ただしこれは頻繁に内部を木の棒やガーゼなどで掃除すればオッケーです。


こんなので管体内部を掃除

長年チューニングをしながら使っていると、ジョイントの摩耗を招く。ジョイントの分だけ僅かに重い。1ピースよりは息の消費量が少なくて高音部を出しやすいけど、低音部が出にくくなることがある。こんなところでしょうか。

買う時の注意点について。ディクソンのチューナブルタイプは、一時期のモデルは、ジョイント内部の形状が悪いものがあって、抜き差しに関わらず、チューニングするとハイエンドのピッチにかなり狂いが出る、というものだったらしいです。


ここが問題

今のモデルではそんな症状は無いんですけど、輸入業者さんなどの在庫にその(問題のある)モデルが残っていることもあるでしょう。古い在庫から探してもらうのではなく、できるだけ最新のモデルを注文したほうが無難だと思います。ジョイント内部の形状には問題は無くても、全体のピッチのバランスが悪いモデルも一時期あったようで。やはりこれも現在のモデルでは解消されているんですけど、業者さんの古い在庫に紛れていることもあります。入荷まで少々待ったとしても、できれば最新型を買ったほうが安全でしょうね。


メーカーについて

ディクソンのメーカーは、常に設計変更を行っていて、改良を図っているようです。管体そのものの寸法や、チューナブル(2ピース)タイプのジョイント部分の精度や、ウインドウェイの形状の変更や、メーカーのロゴをシールから刻印に変更したり、いろいろ試しているようです。こういうメーカーだから品質や性能が安定していて、人気もあるんでしょう。いや、刻印は笛の性能には関係ないか。

ディクソンのサイトはこちら。

http://www.tonydixonmusic.co.uk/


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